第三話 小川原湖自然楽校

QJ列伝、その第三話は“隊長”の愛称で御馴染みの小川原湖自然楽校代表、相馬さんの登場です。編集していてつくづく、隊長の経験に裏づけされた言葉の重みというものを感じました。篤とご覧あれ!(笑)。相馬隊長、ありがとうございました!!
相馬さんはカナディアンカヌーのカヌービルダーでいらっしゃいますが、グリーンランドのカヤックに興味を持った理由は何ですか?
もともとスキンカヤックにすごく興味があった。自分が乗るフネを自分で作れるっているのがいいよね。バイダルカに憧れて、自分でもミニチュアを作ったりしてたんだけど、グリーンランドのカヤックを知って、これも面白いなと思った。ちょっとタイプは違うけどね。「フネを作る」っていうのは基本的に同じ感覚だから。

グリーンランドスタイルとQJとの出会いのきっかけとエピソードを教えて下さい。
グリーンランドスタイルを知ったきっかけは、カヤック仲間が情報を得てきて、その仲間と一緒にグリーンランダースのイベント(G-Style2006)に参加して、自分のスキンカヤックを作ったのが最初の出会い。その後、2010年にQJのイベント(北漕会)に参加してQJと繋がり、今に至るよ。

最初に参加したG-Style2006というのは、どのようなイベントだったのですか?
自艇製作のワークショップで、自分を含めて参加者が3人いて、事前に身体のサイズとか全部聞かれて、先にハシゴの状態まで出来てたんだよね。それを新舞子の艇庫でグリーンランダースのメンバーが集まって手伝ってくれながら作ったよ。 3日くらいだったけども、フレームは完成して、スキンも半分張って持って帰ってきた。もちろん、帰ってきてから仕上げたよ。そんなとこまでできねぇよとかって言われたんだけども、おらはもうとにかく出来るとこまで。スキンを縫ったのはたまげてたね、早いって言われた。でもこっちだってできるだけ作って持って帰りたかったから必死だったよ(笑)

ワークショップに参加して、実際にスキンカヤックを作ってみた感想を聞かせて下さい。
おらが今まで作ってきたフネには設計図があってそれに基づいて作っていくけど、スキンカヤックにはそもそも図面がなくて、口承の文化はすげぇなと思った。設計図なしで体のサイズを元にして完成形をイメージして作るもの作りは初めてだったし、今まで左脳を使って仕事をしてきたから右脳に切り替えるのが戸惑ったけど、出来上がってみれば面白いもんだと思った。

青森でもスキンカヤック製作のワークショップを二回開催されましたね。
最初は、2011年に北日本ブロックの主催で会場を自然楽校にしてやったんだけど、やっぱしほら、ものづくり好きで関わってきてる人間だから、やってみたいなって思ったのと、もう一つは青森ヒバだよ。地元の材料を使ったフネ作りをしたいなと。杉でもなんでもできるんだけども、ただ、杉だと弱すぎるし、フレームとしてもたない。だけどもヒバだったら結構強いから。水にも腐りにくいしね。この時は青森ヒバを使ってスキンカヤックを作ったよ。参加者は3人で、伊東さんに手伝ってもらいながら全3回の工程で3艇のカヤックが完成した。 二回目は2016年~2017年にかけて自艇製作のワークショップをやったけど、まぁそれは想いがあって。どうせやるならSUPER GUTS2に向けて作って、その時に出来たやつが一艇でもあれば面白いねっていうのでやったけど、完成には至らず、この6月に一艇完成する予定。あとは、製作の方もだけども、Qajaqを作ってみよう、触れてみようというワークショップも同時進行でやって、これには台湾からの参加者が来てくれたよ。

小川原湖自然楽校では、カヤックを製作したい人はいつでも作れるのでしょうか?
互いのスケジュールの調整が必要だったり、その人の作業の進み具合にもよるけど、大体一日8~9時間くらいやって、最短で10日だね。押さえなくちゃいけないところがあるから。例えば船体布の仕上げとかね。表に塗る防水の。そこにかかる時期がいつだとかさ。真冬じゃ乾かないからね。それは別にスキンカヤック全般じゃなくて、カナディアンとかでもそうだからね。 今、実際に話してると興味を持っている人はそれなりにいるんだよね。カヤックを作ってみたいなっていう人は声は上がってきてるから、地元で作る人は出てくるとは思う。こっちの拘りとしては、ちょっと割高になるけども使用する材は県産木材で青森ヒバを使いたいっていうのはあるかな。

フネを作りたい、興味はある、でも、「作る」までになかなか辿り着かない人もいっぱいいると思うのですが、その人たちが実際に「作る」までに辿り着くのにはどうしたら良いと思いますか?
やっぱりさ、乗ってもらうしかないよね。要するに、何でもそうなんだけども、自分が興味あってやりたいなって、おらも一番最初カヌーやりたいなと思ったときに、自分から情報を入手して、そこさ直接行って、教えて!みたいな(笑) ここに来ればいろんなタイプのフネがあって、体型に合わせてちょっと乗ってみるという事が可能なので、来て乗ってみるといい。すぐ湖に持っていけばいいからね。
小川原湖はグリーンランドカヤックを体験するのに良いフィールドということですか?
ここはずっと湖棚が広がっている遠浅で、深みもないし、水遊びをするフィールドとしてはとてもいいと思うよ。初心者にとってもここは練習もしやすい、面白い場所だ。なおかつ、寒くて凍る。グリーンランドの擬似体験ができる。氷が浮く水の中でロールもできるからね。 「冷たい!」って言うかもわからないけど、いや、もっと冷たいところでみんな猟をしてんだぜ!まわってんだぜ!みたいなさ、それはやっぱりあるからね。そういうのができるのは、日本広といえどもなかなかない。北海道にいけば、凍っちゃうからね。出たくても出れない。ここは中途半端なとこもあるけれども、凍りかけたときにはいくらでも出れるし、融けかけたときにも出て行けるしさ。そういう意味からいけばここは面白い場所だよ。本場に近い環境でそういう文化の体験ができるっていうね。

QJに入会した時の印象と、実際に入ってみてどんな風に感じましたか?
印象は…よくぐるぐる回るなと思った(笑) それは好き嫌いがみんなあるだろうし、そういうのがやりたくて入ってきている人もいるだろうけど、おらの場合はそれじゃなくて、フネを作りたいっていう思いで入ってきてるから。で、文化の継承ってそういうのを考えると、あーこれなかなか面白いねというのはあったね。 実際に入ってみると、まぁ、色んな人がいるなぁと思った(笑) おらはもの作りに興味があって入ってきているけども、当然それだけでないわけだよね。ロールの技だってそうだしさ、狩猟の技だだってそうだしさ、色んな人たちがいて、その中で動いてるからさ。人との出会いっていうのもすごく面白い。ただ、任意団体のサークルとして動いてるから、常時開催じゃないんだよね。そういうのが他の人が集まって来るにはネックになってくるよね。
今のところ、イベントや練習会が年に数回あって、普段は各自で練習したり作ったりという感じなので、一般の人がQJに触れる機会は少ないかもしれないですね。
あのね、QJに触れるというよりも、グリーンランドの文化なんだよね。そこから入って行って、グリーンランドの文化って面白そうだって、色んな意味でね。それごと押し勧めているのは日本でここしかないよという、結局そこでそういうもので持って行かないと、QJをどうのでなくて、一番の基本的なグリーンランドの文化を体験できる、その体験のしかたとしては色んな体験のしかたがありますよという話だよな。受ける人って色んな情報ごと欲しがってるから、どこがヒットするかわからないわけで、ロールだったり、おらみたいにフネ作りで、お!すげぇなって入ってくる人もいるだろうしさ。いや、なんか訳わかんないけども銛打ちができるような話も聞いたよみたいなさ。

もしかしたら、ロールじゃなくてハープーンに引っ掛かる人もいるかもしれない?!
そうそう(笑) そういうことさ。どこに引っ掛かるかわからないからさ。そのためにはいろんなものごとやっぱしだしておかないと。ただ、QJってだけじゃなくて、グリーンランドの文化って色んなものがあるんですよって。 チュイリックに引っ掛かる人もいるかもしれないしさ。この前、楽校に来た二年生の女の子があれ着て、実際にカヤックに入ってすげえ喜んでたよね。結局、誰がどこで引っ掛かるかわからない。ああやって、てるてる坊主みたいなやつ着て、あー可愛い!とか、あー私も着てまわってみたい!とかって思う子が出てくるかもしれない。稀にね(笑)  面白いと感じる人はそういうところから入ってくるから、情報としてやっぱしいっぱい提供しないといけないよね。今の世の中だからさ、欲しい情報は自分でなんぼでも入手できる。発信する素材と情報の見せ方が大事だと思うよ。まぁこれからだろうな。今もそうだけども、これからも。
青森県(地方)でグリーンランドスタイルを広める活動をしていて、実際のところどうですか?難しい部分もあるでしょうし、でも、ここだからっていう部分もありますよね?
相対的にやりたいと思う人が少ないというのが、地方に行けばいくほど広がらない、一番の大きいあれなんだけども、あとは、実際、体験する土地がグリーンランドとあまりにもギャップがありすぎれば・・・極端な話、ハワイでグリーンランドスタイルのフネを広めようとしたって、誰も見向きもしないよね。かえってサーフボードを作っているほうがまだリアリティがある、そういう話になってくるよね。ロールもカヤック作りもレジャーではなくて生きる糧の延長だからさ。あとはもう、文化で押していくしかないよね。グリーンランドの文化を体験してみませんか?って。そういう世界から入っていくしかない。

あと、一番確実なのは口コミだよね。直接話して「これ面白そう!」っていう形になってくると方向的には向いてくれるけども、欲しくもない情報をいくら発信してたって誰も見向きもしない。やっぱりどこで引っ掛かるかわからないから、いろんな情報を出して、あんなのやこんなのありますよってさ、そうすると一つぐらいは引っ掛かるんじゃないかっていう。 うちは自然楽校をやっているから小さい子どもたちがいっぱい来てるんだけども、そこから巻き込んで大きくなったら一挙に引き込むっていうのも考え方としてはあるかな。 去年、ノミの入れ方とかノミできれいに削っているのを見せたら、見てるだけでも目が輝いてたけど、実際に自分たちでやっている時もすごく輝いてたからね。ああいうのも子どもたちにとっては新鮮だし面白いと思うよ。ここは子どもたちに直接発信できる場所だから、そうすると、じゃあ乗ってみたいとか作ってみたいとかさ。未来のことも考えるとそういうのは必要だなと思うよ。

今後の相馬さんの活動についてお聞かせ下さい。
前から提唱はしてきていて、去年から動き出しているんだけども、ここにグリーンランドのミュージアムを作ろうと。マリギアックの作ったフネがあるし、QJメンバーから寄贈していただいたフネも沢山ある。ここはいろんなタイプのフネがあるから、見て、いろんな考え方がわかるからね。スキンカヤックのミュージアムとしてもこれだけあるところは国内でもなかなかないから、それはやっぱり誇れるなと。あとは乗れるフネもあるから、実際に漕いだり回ったりもできるし、自艇を作ることもできる。作ったらすぐに小川原湖で乗れるっていうのがいいよね。作って、回って、文化も体験できるという。要は、情報的なものも目から入って、体でやってみるっていうさ。ここをその拠点にしたいなと思ってるよ。

最後に、QJの活動をもっと発展させて繋げていくために、大事なことはなんでしょうか?
文化っていう考え方からいくと、栄枯盛衰があって、それはその時その時の関わっている人たちの考え方でみんな変わっていくんだけども、ここもどこをどうやって押さえていくか、周りの人に受け入れられるかどうかっていう。要は、自分たちよがりでだけで進めても誰も付いてこないし、集まってくる人も少ないわけだよね。だから、もの作りにしたって、ロールにしたって、グリーンランドの文化の継承っていうのは一番大きいと思うけども、それを受け手側が「これ面白そうだね」って捉えてくれるように、ただ作るだけ、ロールするだけじゃなくて、いろんな情報を出すことがすごく必要になってくるんじゃないのかな。
受け手としては、選ぶものがいっぱいあると一つくらいは引っ掛かるから。自然体験も同じなんだけども、ただ『野山を駆け回わりませんか』では誰も来ないし、カヌーに乗れますよ、野鳥観察もありますよ、冬は雪の上のスノーシューありますよって。 そういうのがいっぱい出てくるとそれに一つくらいは引っ掛かってくるから、一回引っ掛かったらあとは中に入ってきやすいようにっていうのが大事なのかなとは思うよ。 あとは自分たちがブレないことだよね。潮流に流されてあっちこっちうろうろしてるんじゃやっぱりダメだしさ。だから、QJとしてどういうので進んでいくのかっていうのを明確にしないと、付いていく人たちも大変だし、はっきりとした方向性でもって進まないといけないと思う。それはもう先に立っていく人たちの責任だよね。使命っていうかな。そのときに賛同してる人たちは、じゃあわかりました、そうやって行きましょうかって。そんな風にしてみんなで進んでいくことができるんじゃないかなと思うよ。と言っても、先をいく人間だけが考えててもまずいよね。執行部なり会員もそうなんだけども、中にいる人たちも同じ方向を向かないといけないからね。一緒に動いてくる人たちが少なくとも8割9割ぐらいは合わせてくれないと、なかなか、引っ張っていく方も大変だよね。つまるところ、先に立つ人たちも、付いていく人たちも、同じ方向を向いて進んでいくこと、だと思うよ。
相馬さん、今日はありがとうございました。

2018年3月26日 小川原湖自然楽校にて
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